2025/05/20
転ばぬ先のトレーニング:60代女性が学んだ“正しい歩き方”の大切さ

骨折からのリハビリがきっかけで始まったトレーニング
「この冬、ちょっと雪が降った日だったんです。」
そんな一言から始まった、ある60代女性の物語。彼女はその日、滑って足首を骨折してしまいました。骨折の程度は深刻ではなかったものの、治療やリハビリを経てもなかなか回復が思わしくなく、最後に医師から「体を鍛えた方がいいですよ」と勧められ、フィットネスジムへ通い始めたのがきっかけでした。
骨折からすでに4ヶ月経っているものの、まだ歩き方はぎこちなく、いわゆる「びっこ」を引いた状態。杖や松葉杖は使わずに歩いていますが、完全に回復したとは言えません。実はこの状態自体が、すでに“フレイル(虚弱)”のサインなのです。
転倒のリスクとフレイルの関係
高齢者に多い転倒事故。今回のように足首の骨折で済めばまだ幸いなケースですが、転倒によってよく起きるのが「尻もち」による腰椎圧迫骨折や、「横倒れ」による大腿骨骨折です。これらは車椅子生活に直結する重傷であり、筋力低下が進むとそのまま介護生活へとつながりかねません。
では、なぜ転倒が起きるのか。その主な原因は「つま先が引っかかる」こと。これは、膝がしっかり上がっていない、またはつま先を持ち上げる筋力が弱っていることによるものです。
歩行に必要な2つの筋肉
膝を上げる筋肉は「腸腰筋」や「大腿四頭筋」と呼ばれる、股関節や太もも前側にある筋肉です。一方、つま先を持ち上げるのは「前脛骨筋」という、すねの外側にある筋肉。これらが衰えると、足がしっかり上がらず、ちょっとした段差でつまずいてしまうのです。
そして、それがフレイルの始まり。自分の体をコントロールできなくなってくると、次の転倒は時間の問題になります。
たった10分の正しい歩行で筋肉が悲鳴
この女性も、トレーニングを始めてまだ2週間。足首の痛みはほとんど取れ、関節の可動域も戻ってきました。ただし、歩き方はまだ“ペンギン歩き”のまま。足の裏全体を「ぺたっ」と床につけて歩くスタイルは、かかとからつま先へ体重を移していく正しい歩行動作とは大きく異なります。
そこで彼女は、フィットネス施設で歩行器トレーニングを初体験。速度を「2.0km/h」に設定し、かかとから着地してつま先で蹴るという正しい歩行を10分間続けました。
その結果、たった10分で膝から下が“フラフラ”。これまでの「30分の買い物」とはまったく違う負荷がかかっていたのです。
自分の歩行速度、知っていますか?
厚生労働省が定めた「健康寿命を延ばす歩行速度」は3.8km/h以上。しかし、普段の散歩で自分がどれくらいの速度で歩いているか、実感できている人はほとんどいません。
「速く歩きましょう」と言われても、「どれくらい速く?」という疑問に答えられる人は少ないでしょう。だからこそ、専門家がいる場所で歩行チェックを受けることが重要なのです。歩行器で速度を体感すれば、自分がどれくらいの速さで歩けているのか、そしてそれが十分なのかどうかがはっきりわかります。
“我流”ではなく“正しい方法”で鍛えよう
一人で運動を続けるのは、簡単なようでとても難しいこと。人はどうしても自分に甘くなります。雨が降れば歩かない。暑ければサボる。気分が乗らなければ中止。これでは効果が出ないのも当然です。
一度でも専門家にアドバイスを受け、正しい筋肉の動かし方や歩き方を知ることで、自分に合った運動を日常生活に取り入れることができます。しかも、それは「続けられる方法」でなければ意味がありません。
最後に:転ばぬ先の“足元トレーニング”を
年齢を重ねると、つまずきやすくなるのは避けられません。しかし、それを「年のせい」と片付けてしまっては、いずれ取り返しのつかない事態になります。
まずは一歩。ご自分の歩き方を見直してみてください。そして、可能であれば一度、専門家のいるジムやフィットネス施設を訪れてみてください。
健康寿命を延ばすのは、歩き方から始まります。
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